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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)862号 判決 1962年12月25日

理由

控訴人等が共同して、昭和三三年六月五日、被控訴人に対し、金額を金五〇万円、満期を同年九月二日、振出地及び支払地を神戸市、支払場所を神戸銀行三宮支店とした約束手形一通を振出したので、原告が、満期日にこれを支払のため支払場所に呈示したところ、支払を拒絶されたこと、右手形の欄外に、「株式会社神戸新聞会館振出、同額、支払期日同年八月二九日分に対する保証手形」なる記載がなされていることは、いずれも当事者に争いがない。

控訴人等は、右のような欄外記載がなされていることにより、本件手形の効力を他の手形の支払の有無にかからしめているから、右記載のあることは手形の本質を害するものであり、従つて、本件手形は無効であると抗争するけれども、右記載は、単に、本件手形が欄外記載の被保証手形の支払を保証するために振出されたこと、即ち、本件手形振出の原因関係を記載したのみであつて、控訴人等主張の意義を有するとは解し難いところであるから、右記載があるからといつて、本件手形自体が無効になるとはいえない。

控訴人等は、本件手形の被保証手形が既に決済されており、被控訴人は右事情を知つて本件手形を取得したものであるから、控訴人等には本件手形金を支払う義務がないと抗争し、本件手形が前示被保証手形の支払を保証するために振出されたものであることは、本件手形の前示欄外記載と、他の証拠によつて認められるけれども、被控訴人が右事実を知つていたことについては、これを認めるに足る的確な証拠がない。却つて、証拠によると、被控訴人が、同三三年六月五日頃、訴外山本国夫に対し、金四八万円を約一〇日後に弁済を受ける約束で貸与し、これが弁済確保のため、本件被保証手形(乙第一号証)の交付を受けたが、右弁済期に同訴外人が弁済しないので催告したところ、同訴外人が右被保証手形を他で割引いてもらつた上現金を支払うと言つて右手形の返還を求めたので、これを同訴外人に返還したが、同訴外人において現金を持参せず、同月末頃になつて、右手形を紛失したことを理由に本件手形をもつて右貸金の弁済に充ててほしい旨申出たので、被控訴人においても、やむなく本件手形の譲渡を受けたものであるが、被控訴人は手形に関する知識が乏しいため、本件手形に前示欄外記載が存することを知つてはいたけれども、その意味を理解していなかつたことが認められるところであるから、被控訴人が控訴人等を害するため本件手形を取得したということができない。従つて、その余の点について判断するまでもなく、控訴人等の右抗弁は理由がない。

控訴人等は、本件手形振出によつて何人からもなんらの対価を受けていないと主張するけれども、他の手形債務を保証するために手形を振出す場合においては、保証手形に対する対価が支払われないのが当然であつて、対価が支払われていないからといつて手形債務が発生しないということができない(それは単なる人的抗弁にとどまる。)から、保証手形たる本件手形を善意で取得した被控訴人に対して、右理由により本件手形金の支払義務を免がれるわけにはいかない。

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